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JTF翻訳祭 翻訳祭企画実行委員会

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第20回JTF翻訳祭報告

翻訳者・翻訳会社・クライアントのための翻訳祭【翻訳業界団体の日本翻訳連盟】

「翻訳で切り拓く日本の未来〜需要開拓と新技術〜」

⇒翻訳祭のセッション内容はDVDで受講できます

開会挨拶東 郁男氏 20周年記念JTF 翻訳祭が2010年12月13日、「翻訳で切り拓く日本の未来〜需要開拓と新技術〜」をテーマに、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷(私学会館)で開催された。メイン会場では基調講演とパネルディスカッションが行われ、同時にサブ会場で翻訳業界分科会と支援ツール分科会が20セッション行われ、また、翻訳プラザも開催された。続いて、交流パーティーが開催された。
20周年記念ということで過去最多の700名の方々が参加し、大変盛況であった。

【M-1 基調講演(90分)】「翻訳研究(Translation Studies)と実務の接点」

水野 的(みずの・あきら)氏 日本通訳翻訳学会 副会長・事務局長

講演風景水野 的氏今日は、翻訳研究と実務を結び付けるようなお話をしたいと思う。前半は翻訳研究の紹介、特に等価(equivalence)についてお話しし、後半で具体的にこれを展開していく。

1964年にNida は、形式的等価と動的等価について定義している。形式的等価とは、形式と内容両面においてメッセージ自体に注意を集中し、受容言語におけるメッセージができるだけぴったりと起点言語の様々な要素に一致するよう注意するというもの。そのため、この形の翻訳では注釈により起点言語と受容者言語との溝を埋める作業が発生し、注釈的翻訳と言われるものである。動的等価とは、翻訳の受容者とメッセージの関係は、オリジナルの受容者とメッセージの間に存在した関係と実質的に同一でなければならないというものであり、その目標は、「起点言語のメッセージに対して最も密接で自然な等価」を追求することである。

1979年にKoller は、指示的等価、暗示的・含蓄的・内包的等価、テキスト規範的等価、語用論的等価、文体的等価の5つの等価について定義している。また、1992年にはBaker が、単語レベルの等価、単語レベルを超えた等価、文法的等価、テキスト的等価、語用論的等価などを定義しているが、「本書では便宜上「等価」という用語を使う。(...)ただし、等価はふつうある程度までは可能だとしても、さまざまな言語的・文化的要因の影響受ける。したがってそれは常に相対的である。」と言っている。

1984年頃ドイツのSkopos(目的)理論が盛んになる。これは実務翻訳から発した理論である。原文に等価するように翻訳せよという要請があればそれがSkopos(目的)になる。目的のみが重要だという理論である。また、このころを境に、等価の基準が起点言語を離れ目標言語に移動していく。自然的等価から方向的等価に移っていく。バックトランスレーションしても起点言語に戻らないのが方向的等価である。この目標言語基準の理論もやがて「文化的展開」を迎える。

1990年代に入ると、「機能の等価」という言葉が使われ始める。Halliday は1992年に、「良い翻訳とは、翻訳の行われる状況においてもっとも価値がおかれる言語的特徴をとらえた翻訳、あるいは起点言語テキストでの価値に即した翻訳である」と言っている。高見は、1995年に、「機能的構文論」の中で、「聞き手が文中のある要素の出現を予測できないと話し手がみなす時、その要素はその文の焦点であり、重要度が高い情報である。つまり話し手が聞き手に特に伝達したい部分を焦点、または重要度が高い情報と呼ぶ」としている。具体的には、英語では、SVO の語順でより重要度が高くなり、日本語はSOV の順で重要度が高いといえる。

このような等価論を実際の英日翻訳にあてはめるとどうなるか。英語のIt is... 構文や、What ... is ... 構文では、is の後にもっとも重要な情報を絞り込むように提示しているので、和訳時にもこの部分を強調するようにする。

また、原文と訳文の文化的違いを明示的に示さなければいけない言語の組み合わせもある。たとえば、「もってこい」という命令文は日本語では成り立つが、この言葉には「そう言っている人」「そう言われている人」「対象」「どこからどこへという場所」が含意されている。これらを明示しなければならない英語では、原文にない情報を付け加えなければ文が成立しない。この明示をどこまで行うか、含意をどこまで、あるいはどうくみ取るかにより訳文は変わる。では何を追加し、何を省略すべきなのか。これに対して、Gutt は、関連性理論を使った翻訳理論を説いている。「翻訳はオリジナルcommunicator のテキストがそれを含む表意と推意とともに目標言語の読者に伝えられることとも定義される。つまり、翻訳者の目標は、翻訳をできる限りオリジナルに解釈的に類似するようにすること、同様の文脈効果を与えることである。」としている。字幕翻訳のようにどうしても一部を省略しなければならない場合、関連性理論は有効な導きの糸となる。たとえば、英語のI woke up THREE MINUTES AGO. をスロベニア語に訳すと[I JUST woke] となる。字幕翻訳者には、three minutes ago = short time ago = just という推論が働き、それによって圧縮された翻訳を正当化するような「解釈的類似」に到達できる。翻訳研究の理論はこのような形で翻訳実務に結びつけることができる。

報告者:早舩 由紀見(個人翻訳者)

【M-2 パネルディスカッション1(105分)】「英語の公用語化と翻訳の未来」

< 前半:講演 >
鈴木 義里(すずき・よしさと)氏 大正大学表現学部准教授・学術博士

講演風景鈴木 義里氏英語公用語化について4 点にわたって述べる。1.公用語が必須な例としてのインドについて。2.公用語とはどのようなものか。3.日本での英語公用語化について。4.英語の公用語化と翻訳との関係について。

10億人以上の人口を擁するインドは、多言語国家であり、絶対的な多数派を形成する言語は存在しない(最有力のヒンディー語でさえ約40%)。地域ごとに言語が異なり、一国の国民同士なのに、相互に意思疎通を行うことが難しい場合がある。さらに、主要な文字だけでも10種類にのぼるため、看板の文字を読むことも困難である。このような言語環境の国では、国家の共通言語が必要となる。

公用語とは、法律や規則で定められた言語であり、インドでは、ムガル朝ではペルシャ語が、イギリス統治下では英語が公用語だった。独立後は「ヒンディー語」が国家の公用語として憲法で規定された。また、下位の法律などによって、英語も公用語と同等の資格を保つことになった。さらに、連邦を構成する州ごとに州公用語が制定されている。このように、公用語はさまざまなレベルで制定されることがありうる。

日本では、今年、複数の企業が社内公用語を英語にするという発表を行った。しかし、英語を話す必然性がない環境の中で、この試みが成果を上げるのは厳しいだろう。今回の提案は、世界中で存在感を増している英語とどう向き合うべきかという問題と考えるべきだ。現在のような英語の「ひとり勝ち」はそのまま続くのだろうか? インターネットの世界では確かに英語のサイトはさらに増えるだろうが、世界中の人びとが母語を捨てて英語に向かうということはないだろう。インドでも中国でも、ヨーロッパでもほとんどの人は自分の母語でサイトを閲覧しているし、この方向は今後も強まるだろう。また、日本では、英語ができる人が増えている一方で英語嫌いが増えているという状況がある。今回の社内公用語化の提案は、むしろ英語教育への苦言として受け止めるべきだ。必要なことは、英語を含む外国語教育の改善である。

翻訳という観点からは、英語ができる人が増えれば翻訳は不要となるという見方もある。しかし、むしろ精度の高い翻訳は必要性が高まると私は考えている。つまり、翻訳は質がこれまで以上に要求されるのではないだろうか。

< 後半:パネルディスカッション >

司会者(河野):従来の翻訳業界は受注産業であるが、産業としての自立のためには市場を自ら創造する発想が必要と考え、英語公用語化の議論にそのヒントを求めてこのパネルディスカッションを企画した。最初に英語公用語化に関する各パネラーの意見をうかがいたい。

伊藤:日本人全員が英語を話すようになるための公用語化は不要と思うが、国を挙げて産業を発展させるための国家戦略としての公用語化はあり得るだろう。企業内では目的次第。社員が英語を話せるようになるための教育手段としての公用語には反対だが、すでに英語で世界を舞台に活躍できる人材がさらに飛躍できるための環境づくりとしての英語公用語化には賛成。

斎藤:必然性がないのであれば不要と思う。当社では外国人が多いので会議でも外国人がいるときは英語で話をするが、その頻度が高いため発想が英語的になる。日本人同士の日本語の会議でもまず結論から話をするようになる。英語が公用語化されると言葉だけでなく文化も混ざるということを実感している。

山本:英語程度でつまずくのはなぜか。世界では数カ国語を話せるのが普通。中等教育では、英語以外の言語の科目も作ればよい。UWC、国際バカロレアなどのバイリンガル教育も検討すべき。また、日本語を国際語に育てる発想が必要。翻訳でも、表記の混乱した現状のままの日本語ではハブ言語にできない。英語ではすでに常識だが、日本語でも合理的な表記と最善慣行を検討すべき。

<英語教育について>
斎藤:学びたいと思う気持ちになる環境が必要。「なぜ英語が必要か?」ということを教えて欲しい。学ぶ上では、自分のやる気スイッチを見つけることが重要。たとえば映画が好きなら、そこから入る(私の場合はそうでした)。

河野弘毅氏、鈴木義里氏

「左から:河野弘毅氏、鈴木義里氏」

伊藤彰彦氏、斎藤玲子氏、山本ゆうじ氏

「左から:伊藤彰彦氏、斎藤玲子氏、
山本ゆうじ氏」

会場風景

会場風景

鈴木:今の中学高校の英語教育はコミュニカティブアプローチという手法を取っていて、文法はあまり教えない。ただ、文法教育はやはり必要で汎用性の高い文法教育の必要性を感じている。

伊藤:英語は、それを学ぶ意味を考えることのない幼稚園児から始めるのが良いと思う。中学生になると「何のためにやるのか」というモチベーションが必要になるので、英語にとけ込むという意味でタイミング的に遅い。

<日本の未来と翻訳の未来>
斎藤:今後も翻訳業界は安泰だと思う。コミュニケーション手段としての英語ができる人が増えても、翻訳物は商品なので商品としての価値は下がらない。

山本:現状の英語教育の方法論を徹底的に見直さないと英語教育は低迷したまま。モチベーションを育て、多聴多読することが必須。英会話で話せる知人の輪を広げ、英語を実際に話す機会を増やす必要がある。

伊藤:公用語化が進むと、さらに多くの企業トップがグローバル展開とローカル展開との差を理解し始める。ローカルのお客様に自社製品/サービスを買っていただくためにはローカリゼーションが欠かせないことを企業トップが自覚することは、翻訳業界にとっては追い風となる。

河野:個人翻訳者へのアドバイスは?

斎藤:コミュニケータとして、翻訳物を納品した後の工程を意識することが大事。そこでは今後、英語がもっと使われるようになる。たとえば、コメントや質問を英語で書くなど、「英日翻訳なのでやり取りも日本語文化で」という考えから脱却することが大事。

山本:言葉を使うか、言葉に使われるかだ。言葉を主体的に使う立場に回る必要がある。公用語化や実務翻訳でのビジネス英語は、美術や文学を語る英語に比べればはるかにやさしい。

伊藤:英語ができると海外の翻訳会社や企業と直接取引ができる。営業ツールとなり、ビジネスハイウェイのチケットを得たのと同じこと。活用してほしい。

報告者:早舩 由紀見(個人翻訳者)

【M-3 パネルディスカッション2(105分)】「強い翻訳者から学ぶ」〜いかにしてお客様の満足を得るか〜

●パネリスト
・ジェフ・ケイジョウ・ソーヤー(Jeff Keijo Sawyer)氏
日英技術翻訳者

鈴木 立哉(すずき・たつや)氏
金融翻訳者

・溜箭 陽子(たまるや・ようこ)氏
医薬翻訳者

・松本 かおる(まつもと・かおる)氏
IT翻訳者

●モデレーター
川村 みどり(かわむら・みどり)氏
株式会社川村インターナショナル 代表取締役、JTF理事

司会(川村):世界の言語サービス産業は2兆円規模で、5年後には3兆円規模となり成長率が13.15%というデータがある。日本の市場はやっとリーマン・ショックから立ち直って少しずつ仕事が増えている状況である。需要は伸びているが市場も変化している。キーワードは市場の低コスト化とグローバル化。翻訳産業は、高品質高価格ビジネスから、超低コストのBtoC、その下に無料のクラウドソーシング等、さまざまなセグメントに分かれてきている。本日お越しいただいた4人の翻訳者の方は仕事の充足度の高い方たちである。なぜ充足度が高いのか、どうやってお客様の満足を得ているのか、変化する市場にどう対応しているのかをお聞かせいただきたい。

鈴木:翻訳者として9年目の金融翻訳者。ヘッジファンドや投資レポートなどの和訳を主に行っている。

松本:システムエンジニアだったが出産退職し3ヶ月間専業主婦をやったが嫌で我慢できず、家でできる翻訳を仕事に選んだ。翻訳者として15年目である。

ジェフ:自動車、化学技術を専門とする翻訳者となり5年半。

溜箭:医薬翻訳者となり5年目。現在は子供が小さいので短時間で効率的に仕事をこなしている。

川村:ジェフさん以外は専門のバックグランドがあるが、知識のない人が専門分野の翻訳を目指すにはどうすればよいか?

溜箭:医薬翻訳の場合はよく高校の生物を勉強すると良いと言われている。独学で良いから自分の専門のよりどころとなる知識の核を学べると良い。

松本:興味のある分野を勉強するとよい。IT 分野はすそ野が広いので入りやすい。

鈴木:自分にも専門はあるが、それよりも英語が好きだった。やはり好きなものを翻訳するのが良いのではないかと思う。

川村:仕事の依頼が継続的に来るのはなぜか?

ジェフ:専門知識があることと訳文の質が良いからだと思う。あとはコミュニケーション力で、自分は日本語でコミュニケーションできるので他のネイティブとはそこが違う。また時間外でも対応できるところ。

溜箭:専門知識に裏付けられた質の高い翻訳を提供できるから。また、夜中や週末でも柔軟な対応が可能。

松本:納期に遅れないことと時間に縛られない柔軟な対応。翻訳は読者の目線で訳し、校正者のことを考えてコメントしている。

鈴木:翻訳会社にはない個人翻訳者の付加価値として、朝6時に仕事を受けて8時までに仕上げられたり、お客様が秘密文書を「翻訳者1人以外誰も見ない」ことを信頼してくれるという点を挙げられると思う。

川村みどり氏

「川村みどり氏」

鈴木立哉氏、松本かおる氏

「左から:鈴木立哉氏、松本かおる氏」

ジェフ・ケイジョウ・ソーヤー氏、溜箭陽子氏

「左から:ジェフ・ケイジョウ・ソーヤー氏、
溜箭陽子氏」

会場風景

会場風景

 

川村:将来の市場変化にどのように対応していくか?

溜箭:低コストを打診されたことがなく、市場の変化をまだ実感していない。

松本:私もここ数年収入が変わらない。ただ、国内の翻訳会社には円高を理由に価格を下げられたことがあるし、海外の翻訳会社からうけるドル建ての仕事には円高のデメリットがある。

鈴木:2008年12月に仕事が2割ほど減って焦った。しかし年明けからJAT(日本翻訳者協会)や翻訳者ディレクトリ経由で仕事が来るようになり、翻訳会社も募集をかけるほど余裕がないことを実感した。その後仕事が継続的に入り今のところ困っていない。

ジェフ:今年は仕事が増えた。某CAT を購入したからでしょうね。

川村:グローバル化による影響は何かあるか?

ジェフ:自動翻訳機は脅威だ。将来、「翻訳」というのは機械・ソフトで訳したものを人間の手でちょっと修正(エディット)で済むのではないか。またインドなどの安い翻訳も脅威に感じる。

鈴木:金融翻訳も機械翻訳でできる分野があるが、人にしかできない部分が圧倒的。例えば「読み手を意識した」翻訳は機械には無理。

川村:翻訳者として情報発信をしているか?

溜箭:アメリアのプロフィール欄をこまめに更新している。まじめに書くと翻訳会社の人もきちんと読んでくれる。

ジェフ:JATホームページでプロフィールを乗せている。またイベントに参加している。最近では自分のホームページも建設中。

松本:翻訳者ディレクトリのプロフィールをこまめに更新している。海外のエージェントも見ていて、仕事が来ることもある。

鈴木:JAT、翻訳者ディレクトリ、アメリア等に情報公開している。トライアルにも積極的に応募している。ツイッターに営業日誌を書いている。

川村:これまでのお話をまとめると、仕事が途切れない理由は、時間的にフレキシブルな対応、納期を守る、オーディエンスや後工程を考えた翻訳をしているから。市場の変化に対しては、ネットを使った営業で情報をまめに更新する。

鈴木:一定期間、生活の全てを翻訳に捧げて「楽しかった」と思えれば翻訳で食いっぱぐれることはないと思う。苦しく感じたら向いていない。止めた方が無難。

川村:好きかどうかとどの程度継続的に時間をかけられるかでビジネスとして成功するかどうかが決まると思う。

報告者:早舩 由紀見(個人翻訳者)

●翻訳業界分科会1

【A-1 メディカル(45分)】「翻訳プロセスはプロレスだ!:新薬開発の現場から」

石岡 映子(いしおか・えいこ)氏 株式会社アスカコーポレーション 代表取締役、JTF理事

加瀬 淑子(かせ・よしこ)氏 グラクソ・スミスクライン株式会社 開発薬事第2部 レギュラトリーオペレーショングループ 担当マネージャー、チームリーダー(翻訳)

会場風景石岡 映子氏、加瀬 淑子氏製薬企業の発展や売上は経済的影響も大きく、世界市場で1位の企業(GSK)の年間売上は40兆円に上る(比較例として国家予算は約120〜130兆円)。国内企業は各社とも世界市場の売上順位を少しでも上げるために、翻訳スピードを急かすのが現状。薬剤開発費は売上の20%程度。新薬承認件数(適応拡大・追加も含む)は年々増加している。

グローバル試験、適応拡大などで「世界初」を勝ち取る競争が患者や株主から期待され、日本企業は海外企業との競争の中で資料を翻訳しなければならない(翻訳が必要なのは世界でほぼ日本のみ)。そのため、翻訳に割ける時間は最小限(隙間時間)でこなさなければならない。

翻訳者の適性と背景
・専門用語よりも一般常識・通常のビジネス常識のほうが大切。
・正式な書類への書き言葉として常識かどうか?
・ケアレスミス・ポカミス厳禁!→社内で丁寧にチェックする時間はあまりない。
・「サービス精神」は重要!
・「仕事が速い、ミスが少ない、フレキシブル」な翻訳者。
・調査をいとわない、counter suggestion が多くて逆にいろいろ教えてくれる訳者。

プロである以上、ミッションはこなさなければならない。気分転換したり、分野の違うジャーナルを読んだり勉強をしたり、外に出たりする。IBの改訂の連続など、同じものばかりで飽きがくることがあっても、中身(商品)自体は違うのだから、中身に興味を持って惰性は防ぐよう工夫する。

製薬会社からのトライアルの評価基準
・スペルミスやpunctuationミスは絶対NG
・読み手(誰が読むのか)、最終ユーザー(製薬企業か役所か?など)を考える

「メディカルはレートが高い」といわれるがそんなことはない。
製薬会社(エンドクライアント)の立場:会社の購買部が決めた中心価格から外れると、どんなに優秀な訳者であってもオーダーすることはできない

品質とは何か?
「専門用語」と答える訳者が多いが、それが「品質」なのではない。最終的な使用目的(社内SOPか患者用か、被験者用か、読む対象年代など)、客のニーズに合わせるほうが、専門用語より重要。
参考資料やフィードバックを有効に使う

報告者:石崎 智子(個人翻訳者)

【A-2 特許(45分)】「企業と知的財産 〜特許海外展開と翻訳〜」

横山 淳一氏横山 淳一(よこやま・じゅんいち)氏
富士通株式会社 知的財産権本部 特許部シニアディレクタ 弁理士

国内特許出願した明細書を米国向け明細書に変換することを「翻訳」と定義し、さらに「狭義」と「広義」の翻訳に分類した。前者は一般的な翻訳、後者は特許常識に基づき知財の専門家が米国の特許明細書に変換することを指す。

翻訳を依頼しても、期待する仕上がりにならない。狭義の翻訳を期待していたのに広義の翻訳をされたり、その逆もある。かかる齟齬が生じるのは、依頼者が自分の希望を翻訳者に示していないからではないか。ということで、横山氏から、「翻訳者からどんどんコメントを送ってほしい。コメントを蓄積したら依頼者へ対面でフィードバックするなどし、依頼者が明確な翻訳仕様を出すように仕向けてほしい。」との提言があった。

浜口 宗武氏浜口 宗武(はまぐち・むねたけ)氏
株式会社知財翻訳研究所 代表取締役

1. マクロ視点から
リーマンショック後、日、米、欧、中、韓のいずれも海外出願数が減少した。

2. 世界的な知財パワーバランスの変化
日米欧の三極関係から中国と韓国を加えた五極化へ。中国と韓国の拡大が著しい。中国の受理件数は世界一、出願件数が最多企業も中国企業である。韓国の特許事務所や翻訳会社が日本に積極的に接触し、海外出願を手助けするハブ事務所になっている。コスト面でも優勢。

3. 諸外国における特許翻訳体制
米国は、多言語翻訳ベンダーが日、中、韓翻訳などを依頼主から一手に請け負う。中国は、誤訳等の問題はあるが、相当数の案件が渡っている上、国を挙げて知的財産周辺サービス業の拡大に取り組んでいる。韓国は、弁理士試験に外国語を取り入れる等、国家予算を使って知財周辺サービス業を拡大している。

4. 特許翻訳重要に関連する最近の出来事
世界特許制度
スリートラック構想
情報開示陳述書(IDS)

5. 日本からの海外出願用特許はどこで行われているのか?
独自の調査の結果、1位は特許事務所、2位は国内の翻訳会社。

6. 日本出願人企業が求めるもの
同上の調査にて、翻訳の依頼側とされる側の意思疎通が不十分であることが示された。「出願方式・国に合わせた翻訳を望むのに逐語翻訳される」と「原文に正確な逐語訳を望むのに意訳される」という正反対の回答が出た。

7. 国内特許翻訳の価格動向
価格は下降傾向。現状では、品質よりコスト重視。

8. 近未来の特許翻訳者像
大量規格化と高度専門化の二極化が予想される。前者は、ガイドライン等を周到に準備すれば、IT化も進めやすい。一方、最初から英語でPTC出願するなど、付加価値の高い翻訳が求められる。この両方をカバーするのが翻訳を供給する側の立場である。

報告者:松尾 彩子(株式会社コンテックス 翻訳サービス部)

【A-3 自動車(45分)】「TTDCにおける自動車技術翻訳」

八反田 信(はったんだ・まこと)氏 トヨタテクニカルディベロップメント株式会社 外国部 翻訳室 室長

会場風景八反田 信氏トヨタテクニカルディベロップメント株式会社(TTDC)は2006年に設立され、トヨタ自動車(株)100%出資のパートナーとしてトヨタ車開発の全プロセスに関わり、トヨタ車の先行技術開発および車両や部品開発の支援を行っている。

TTDCの外国部翻訳室は、トヨタのものづくりにおける考え方「トヨタウェイ」と専門用語を熟知した上で、機密度の高い資料の翻訳サービスを提供している。具体的には、トヨタの技術論文誌、自動車技術会発行の自動車用語辞典、知的財産関連、米国自動車技術会への発表論文、トヨタ自動車(株)のグローバル化に伴う翻訳を担当している。また、F1や海外現地社員の研修における通訳も行っている。

同社では客担制度(お客様担当制度)により、翻訳者が顧客の生の声を把握し、見積りから納品までの一連を担当する。大量・短納期の受注案件については、パートナー企業やフリーランスに依頼する。また、100万語以上の訳語とノウハウを蓄積したオリジナル辞書を作成している。人材育成プログラムにも力を入れ、OJT教育、全社教育、専門教育、自己啓発支援を実施し、専門教育では自動車の構造を理解するため、翻訳者も車の分解・組立を実際に経験する。社員のスキルアップのために資格支援制度も設け、支援金を支給してサポートしている。翻訳の品質管理をこのように行っている。

同社は現在、新卒のみ採用し、時間をかけて職場が求める人材を育成する。就職イベントを活用し、外国語系大学のキャリアセンターと連携している。求める人材は、単に翻訳ができるだけの翻訳家ではなく、翻訳事業(客担)の運営ができ、協調性、コミュニケーション能力、論理力があり、長く勤める意思がある人材である。また、会社の制度に基づいた組織作りを行っており、育児休暇は最長2年間取得でき、復帰後も短時間勤務を可能としている。7〜8割が退職後もフリーランスとして契約。これにより、トヨタウェイや専門用語を熟知し、専門知識を持った人材を確保している。

TTDC翻訳室は、1.トヨタウェイを熟知したプロ集団とトヨタの専門知識を蓄積した辞書の活用、2.機密情報の保持、3.トヨタのニーズの把握を売りとして、トヨタに翻訳・通訳サービスを提供している。

報告者:鈴野 恵子(株式会社コンテックス 翻訳サービス部)

【A-4 Native・日英翻訳(45分)】「簡潔かつ明確なビジネス英訳 〜英語ネイティブの観点とアドバイス〜」

岩田ヘレン氏

「岩田ヘレン氏」

マーク・スティーブンソン氏

「マーク・スティーブンソン氏」

会場風景

岩田 ヘレン(Helen Iwata)氏
JAT理事長、外資系大手経営コンサルティング会社 翻訳通訳者

マーク・スティーブンソン(Mark Stevenson)氏
JAT理事イーアソシエイツ株式会社 翻訳事業部 トランスレーター エディター

翻訳通訳だけでなく、ビジネスコミュニケーションのアドバイスも行う岩田ヘレン氏は、翻訳で一番大事なことは、読み手にとって読みやすくわかりやすい文章に仕上げることだと示された。

翻訳における3つの重要なポイントは、1.What(伝えたいメッセージは何か)、2.Who to(読み手は誰か)、3.How(伝え方)である。原文を書いた人は伝えたいメッセージを考えて書いているが、翻訳した場合、原文の読み手と訳文の読み手は違ってくる。新しい読み手にとってわかりやすく仕上げることが重要である。

以下、セッションで取り上げられた例題から抜粋。

【例題】2009年9月15日で、リーマンショックからちょうど一年が経ちました。
「リーマンショック」は日本やアジアでは使われているが、欧米では言わない。
The "Lehman shock"、Leman's fallと訳した翻訳者もいたが、the Lehman collapseが的確である。the collapse of Lehman Brothersは文法的に正しいが長い。ビジネスコミュニケーションでは、簡潔な表現の方が望ましい。
訳例)"September 15, 2009, marked the first anniversary of the Lehman collapse."

【例題】クラウドは群衆ではなくて雲を指す。
The "kuraudo" in this context refers to "cloud," not "crowd." と訳した翻訳者もいたが、
"kuraudo"とローマ字表記を使うと、日本語がわからず読み手には通じない。
原文と多少違っても、訳文の読み手にわかりやすく伝えるために、次のようにも訳せる。The term "cloud" comes from clouds in the sky - even though it sounds like "crowd" to my Japanese ear.

マーク・スティーブンソン氏は、様々な業界の企業のIR資料の英訳を行っている。多種多様な業界の資料の翻訳には、業界用語を即時に検索し、用語の正しい使い方を調べる能力が必要であるとのことだった。

IR資料の英訳に役立つサイトは、www.secinfo.com(上場企業が米国証券取引委員会(SEC)に提供した資料を公開するデータベースサイト)。Google FinanceやThe Wall Street Journal、The Economist、Financial Times等のビジネス誌のサイトも有用である。

日本語原文で専門用語の意味を理解し、同業他社のウェブサイトで、業界用語の意味や使い方を確認することが重要である。

以下、セッションで取り上げられた例題から抜粋。

【例題】「限界利益率」
Wikipedia日本語版やGoogle Booksによると、日本語の「限界利益率」には会計学と経済学で異なる2つの意味がある。しかし、英語で「限界利益率」は、経済学ではmarginal profit、会計学ではcontribution marginである。IR資料ではcontribution marginとして訳出する。

【例題】海運業界における「市況」
海運業界の企業のウェブサイト等で用語の意味と使い方を確認する。辞書で「市況」は、market conditionsだが、海運業では「運賃、傭船料」といった特別な意味で使われる。正しい訳はfreight ratesとなる。

報告者:鈴野 恵子(株式会社コンテックス 翻訳サービス部)

【A-5 法律(45分)】「未来につなげる翻訳力〜法律翻訳の動向と契約書翻訳ワンポイントアドバイス〜」

飯泉 恵美子(いいずみ・えみこ)氏 有限会社ジェックス 代表取締役

会場風景飯泉 恵美子氏はじめに、法律翻訳の動向として、文書の種類を専門性の高さと所定書式の有無に応じて4タイプに分類し、各タイプに対するリーマンショックの影響について分析が示された。それによると、個人向けの文書はもともと発注量が少ないため、リーマンショックによる影響が小さい。それに対し、企業関係の文書(社内規則、契約書、議事録など)では、契約条件の変更や工場設備の閉鎖・売却など、ネガティブな内容のものが多く発生した。結果的に、全体として発注量に大きな変化はないものの、「暗い」案件が増加するという傾向が見られた。また、英日翻訳が減少し、日英翻訳が増加しているという傾向や、企業の定款変更に伴うリーガルコメントの発生、コンプライアンス関係の文書に対する翻訳者の不足なども指摘された。

今後発生する文書の種類は、既存契約の変更・修正契約、人事・就業規則、雇用関連の覚書、貸借対照表、損益計算書、企業の売却・清算に関係するものである。これらの文書の翻訳では、適切な表現、労働法、財務・経理・会計、会社法に関する知識が求められる。
特に、法律関係では、使ってよい言葉のルールが変更されるため、十分に注意する必要がある。この点については、「intellectual property」(旧訳:知的所有権⇒新訳:知的財産権)と「industrial property」(旧訳:産業所有権⇒新訳:産業財産権)の例が挙げられ、表現が使用されている年代や背景を確認し、変化に対応していくことの重要性が強調された。また、「nondisclosure」(秘密/機密)の訳出や、「entrustment agreement」(請負/委任/業務委託契約)の使い分けなどの例も挙げられた。

掛かり受けの正確さ、時制の意味、接続詞や助動詞の訳し方、表記のルールなど、法律翻訳における一般的な注意事項について課題文を使った説明があり、最後の質疑応答では、日本語の表現や翻訳ツールの利用法などが議論された。

報告者:松尾 彩子(株式会社コンテックス 翻訳サービス部)

●翻訳業界分科会2

【B-1 金融(45分)】「法定開示文書の英訳 〜ニッチな市場の確かな需要に応える〜」

松本 智子(まつもと・ともこ)氏 日本財務翻訳株式会社 取締役COO

会場風景松本 智子氏本セッションでは、日本財務翻訳株式会社の松本氏から、財務翻訳市場の現状、成長の背景、翻訳会社/翻訳者に求められる要素が紹介された。

同社は、財務翻訳(英訳)に特化し、決算短信と招集通知を中心に300社を超える企業からの案件に対応している。日本は3月決算の企業がほとんどのため、上記文書の翻訳作業は5月に集中し、平常月の何倍もの作業をこなすために顧客も現場も繁忙を極めるのが現状である。

法定開示文書とは、金融庁や証券取引所などへの届出が必要な報告書を指す(決算短信、招集通知、有価証券報告書、適時開示リリースなど)。現在日本の上場企業のうち、約400社が招集通知、約1,000社が決算短信の英語版を作成していると推定される。

東京証券取引所のホームページに日本語の招集通知の掲載が義務化されたことに合わせ、任意ではあるが、英語の招集通知の掲載も可能になった。また、国際会計基準(IFRS)が導入されれば、開示情報の英語版作成の機運は一気に高まると見られており、法定開示文書の英訳の需要は、今後ますます増大すると考えられる。

では、増加する需要に対応し、かつ法定開示文書の翻訳特有の難しさをクリアするために、翻訳会社と翻訳者に求められる要素は何か。まずは、専門的な知識とアドバイス能力である。例えば、招集通知に記載される買収防衛策、財務諸表に新たに追加された注記の英訳には専門的な知識が不可欠である。短信や招集通知の英訳範囲などに関する相談には、市場の現状に基づいたアドバイスが求められる。次に、納品後すぐにウェブサイトにアップされることが多いため、レイアウトを含め、文書作成のルールに従った、完成度の高い、ミスのない文書を納品しなければならない。そのためにはWORDの機能を活用した合理的な文書作成能力が欠かせない。また、企業ごとの要望や独特の表現に対応し、法律や規則の改正など最新情報に基づいた翻訳をするなど、決め細かな作業も大切だ。さらに、開示前情報を扱うため、インサイダー情報管理対策の実施が必須である。

今後数年で本分野の案件は急速に増加する。現在の負荷の一極集中に対応するためにも、翻訳者、オペレーター、チェッカー、コーディネーターのすべてにおいて、翻訳業界全体で人材を育成して受け皿を広げたい。翻訳者には会計知識を蓄え、各種文書への対応力を高めていただきたい。そして、これから一緒に成長してゆきましょう、と松本氏は締めくくった。

報告者:松尾 彩子(株式会社コンテックス 翻訳サービス部)

【B-2 多言語(45分)】「多言語翻訳ベンダーの現状と成長戦略」

小澤 賢治氏小澤 賢治(おざわ・けんじ)氏
ヨンカーズ トランスレーション アンド エンジニアリング株式会社 APACセールスグループマネージャ

多言語翻訳業界においては従来の手法では対応しにくいクライアントの期待の変化が生じており、その対応が課題となっている。

クライアントの期待(左側)と課題(右側)
・日英から多言語へ → チーム体制の最適化
・コスト削減 → 価格競争
・納期の短縮化 → 短納期
・アップデート頻度 → 整合性確保の限界
・品質基準 → 作業員荷の増大

ヨンカーズ社では、この解決策として、以下のような対策を取っている。
・標準化したプロセスをクライアントのニーズに基づきカスタマイズする
・現地翻訳にて品質を維持する(言語間の品質のばらつきをなくすため、国内にQA体制を完備する)
・エンジニア/DTPを、ハブ(中国、ベトナム、チェコ等)にて一元管理し、コスト削減を図る

今後は、業務効率化のため、コンテンツ管理、MT(機械翻訳)とポストエディット、クラウド型翻訳メモリの活用が重要になる。

小林 和久氏小林 和久(こばやし・かずひさ)氏
アラヤ株式会社 執行役員

国内重視からグローバル展開にシフトしているクライアントは、早く安く翻訳するだけでなく、世界同時展開(全言語同時リリース)対応を求めている。アラヤ社では、ローカライズ処理をしやすいコンテンツから開始し、ドラフト段階でTM(翻訳メモリー)を作成し、最終段階では差分のみの翻訳を短期間で仕上げることで、クライアントの要望に対応している。

今後は、紙ベースの取扱説明書が減り、製品に同梱されるオンライン化が進むことが予想され、製品UI(ユーザーインターフェイス)への対応が求められる。

両社は、今後も互いの得意分野を生かして、相互補完的に相乗効果を発揮していきたいと考えている。

会場風景○ヨンカーズ社
本店はベルギー、ブリュッセル。80言語以上に対応するマルチリンガルベンダー。主なサービスは、翻訳/ローカリゼーション、テスティング。

○アラヤ社
東京に本社があり、海外にも拠点を持つ日本企業。主な業務は、コンテンツ制作・翻訳。日本のメーカーの海外展開を支援する。

報告者:小野 温代(個人翻訳者)

【B-3 出版(45分)】「出版翻訳の現状と動向」

鈴木 英之氏鈴木 英之(すずき・ひでゆき)氏
大日本印刷株式会社 GMM本部 本部長

印刷と出版の国際化

1980年代から印刷業の国際化が本格的に始まった。印刷業の国際化とは単に「海外で印刷すること」ではない。大日本印刷(DNP)は、印刷される「情報」の多言語化に対応した情報加工サービスと、その情報を物理的な「物(印刷物)」に具現化する国際最適地印刷サービスを、トータルで提供している。国際最適地印刷とは、世界各地の印刷会社とネットワークを組織し、印刷用データを現地に送信して印刷することで、時間とコストを最小限に抑えるモデル。当然、言語変換(翻訳)サービスは必須であり、DNPは翻訳会社とチームを組んで、これに対応している。

仮説としてだが、IT(情報技術)との親和性に応じてコンテントを3つの群(α群:産業、β群:文化・芸術、γ群:学術)に分類すると、出版翻訳には3群のすべての要素が含まれる。中でも文化・芸術にまつわるコンテントは機械翻訳などのITを最も活用しにくいと思われるが、機械化しにくいからこそ、翻訳という人間の高度な頭脳労働とITを組み合わせることが重要になる。

出版翻訳ニーズの源泉は国際出版企画だが、日本においては翻訳出版権のライセンス型のビジネスが主体で、中でも海外から日本に入ってくる(日本からみれば輸入)出版物の方が圧倒的に多い。今後は、1.日本市場での多言語出版と2.日本企業と海外企業との共同コンテント開発の機会が増えるだろう。日本発の出版コンテントを国際展開するには、コンテント自体の力が重要なのは当然だが、英語のマスター版から日本語を含む多言語版に展開するワークフローが有効になりうる。それには産業翻訳や学術翻訳の知見と技術が役立つ。

高松 有美子氏高松 有美子(たかまつ・ゆみこ)氏
株式会社アイディ 出版部 マネージャー

出版翻訳と産業翻訳のクロスオーバー

出版翻訳者が食べていくのが大変な時代になった。しかし今後の展開に乗っていける翻訳者は生き残れる。

1999年から2009年の10年間で、新刊の出版点数は、約65,000点から約78,000点に増えたが、平均発行部数は約6,400冊から約4,900冊に減少した。つまり初版刷部数が大きく減少したことになる。新刊の翻訳出版物の発行点数も同様に減少し、重版はほとんどない。この10年間の書籍の輸出入に関しては、輸入額は減少したが下げ幅は20%ほど。それに対して輸出額は約半分に減少した。輸出先・輸入元として中国・台湾の割合が大きくなっている。

いま、出版翻訳と産業翻訳の区別があいまいになっている。かつて、専門分野ごとに棲み分けていた出版社が、他分野にも手を出しているからだ。産業翻訳者が文学的表現を求められ、出版翻訳者が技術的知識を求められることも多い(クロスオーバー)。

グローバル化の波に乗り、また電子書籍の普及と相まって、これからはコンテント(内容)勝負の時代になる。以前は文化の違いに配慮せず、日本的なコンテントもそのまま翻訳して海外に出していた(会社案内の社長の挨拶文など)。今後は、「海外から日本を見る」視点を持って、最初から海外向けのコンテントを作る、あるいは既存のコンテントを見直すことが必要になる。国際出版翻訳の拡充のためには、出版社、印刷会社、エージェント、翻訳者などによる協同作業が必要であり、日本からの出版物の輸出をさらに増やすことが重要だ。

報告者:田中 千鶴香(個人翻訳者、JTF理事)

【B-4 映像(45分)】「エンタメ翻訳における新たなマーケットとしてのゲーム翻訳」

川島誠一氏

「川島誠一氏」

森澤海郎氏

「森澤海郎氏」

川島 誠一(かわしま・せいいち)氏
グロービジョン株式会社 制作営業部部長

森澤 海郎(もりさわ・あろう)氏
株式会社ワイズ・インフィニティ 字幕翻訳/演出 課長

1.エンタメ翻訳
エンタメ翻訳→新たなマーケット
海外の映画・ドラマの字幕や吹き替え(音声収録)→観る人の嗜好が大きく影響。
技術の変化や進歩が業界を押し上げている。

現状:
映画館上映は邦画が半数以上。洋画は減少傾向、洋画をまったく観ない中高生も増加。

レンタルビデオ店:
手前の棚から米国ドラマ→韓国ドラマ→邦画→ハリウッド映画(人気のバロメーター)。
ドラマのほうが収益性が高い。映画のレンタル売上は1回で終了、ドラマは続きがあるので複数売上。大手の会社の日本子会社(配給会社)がやるので、日本の中小の配給会社がワリを食う。映画館上映だけでは映画費用はペイしない→ビデオ店での売上確保が必要→でもドラマに負けて後ろの棚→売上確保できず制作予算低下→どんどん洋画がつまらなくなる。

技術の変化:
テレビ普及(吹き替え版の需要)→ビデオ/レンタル→DVD/CSなど→ブルーレイ、3D(質はよいがそんなに高くは売れないので技術的コスト大)=普及は未知数?

2.海外ゲームのローカライズ
21世紀(2000年代)〜:ゲーム翻訳におけるパイオニア時期

黎明期(1960年代)
1980年代、ゲーム市場の大半は日本(海外ではゲーム人口自体が少数)。任天堂ファミコンが世界販売開始(80年代後半)→ファミコンに親しんだ(欧米の)子供たちが大人になり2000年代から自分達でもゲーム作成→欧米市場がアっという間に日本を追い越す(逆輸入)=2002年xboxのローカライズ開始で一気に増加

ローカライズの必要性
・ハリウッド映画のノウハウとゲームの相性が良かった
・ストーリー性や展開
・量や規模も日本と桁違い

ゲームのフルボイス化:キャラが話すセリフの翻訳(吹き替え)

3.ゲーム翻訳者に求められること
ゲームの世界観に慣れていること。
1セリフ1ファイルで、膨大な(何万という)ファイル数になるが、ひとつひとつは断片的で、背景状況やキャラ設定などから適切に訳していく力量が要る。
映像が出来上がる前に翻訳することが多く、映像と合わせた確認作業ができない場合も多い。

4.ローカライズ現場について全体像
メインキャストはボイスサンプルをクライアントに送って承認を得る。
それ以外はダブリが可能な声優を選び、ひとり何役もこなしてもらう。
翻訳の際の3大資料:用語集/キャラ設定集/シノプシス

報告者:石崎 智子(個人翻訳者)

【B-5 IT・ローカリ(45分)】「海外発、ローカリゼーションのゆくえ」

菊地 昭一氏菊地 昭一(きくち・しょういち)氏
クォリスジャパン株式会社 代表取締役

"Cloud"で変化するローカリゼーション

"Cloud"は、企業のITに変革を強いる。当然、翻訳サービスのビジネスモデルも変える。SaaSプロバイダーであるクォリスが必要とする翻訳サービスは、クラウドに対応したまったく新しい形態の翻訳サービスでなければ得られない。

クォリスでは、毎日、新しい翻訳ニーズが発生し、当日中にその翻訳を終えなければならない。クォリスが翻訳を依頼する翻訳会社は、紙、テキスト、TMなどで納品せずに、翻訳結果をシステムに直に組み込む。プロジェクト単位/翻訳メモリー単位の考え方がなく、請求書の項目数が少ない。

重要なのは「スピード」と「質」。万一誤訳があれば、すぐに顧客のシステムに影響が出る。日本語または英語に表示言語を切り替えられるので、必要があれば顧客は翻訳の質を簡単にチェックできる。

品質にうるさい日本企業を顧客に持つクォリスは、米国のMLVではなく日本の翻訳会社をパートナーに選んだ。現在クォリスが得ている翻訳サービスのレベルは、非常に高い。翻訳会社の高い品質管理能力と翻訳者ネットワークのおかげで、約3年で大きく伸びた需要にスムーズに対応できた。

クォリス社は翻訳会社を「下請け」とは考えず、ともに業績を伸ばす「パートナー」と考えている。課題はやはり「コスト」だ。現在の品質レベルは日本でしか得られない。日本の翻訳会社をパートナーに、という姿勢を変わらないが、翻訳者は日本人以外でもよいかもしれない。

伊藤 彰彦氏伊藤 彰彦(いとう・あきひこ)氏
株式会社十印 取締役副社長

新しい波の衝撃

Web2.0は、情報の入手と発信の方法を大きく変えた。「情報を待てない、とにかく早く欲しい、だから品質はGood Enoughでいい」というユーザーが増えている。

従来のTEP(Translation、Edit、Proof)に固執する翻訳会社は、この新しい波を乗り越えられない。まず「日本語は特別」という神話を捨てるべきだ。差別化のポイントが、「品質」よりも「スピード」、「信頼」よりも「手離れの良さ」、「安さ」よりも「処理量の多さ」に移っていることを認識する必要がある。

発注側も、情報を待てないユーザーとGood Enough文化への対応が必要だ。英語以外の言語への展開を最初から視野に入れることも重要になる。そのためには、さまざまな課題にアドバイスを提供できる翻訳会社とパートナー関係を作り、共同でコンテンツ戦略を練ることが有効だ。

翻訳者は「今のままで食べていけるのか?」をあらためて考えよう。「TMは使わない」「翻訳はアートだ」と言っていては大型案件を遠ざける。クライアントのニーズに良く耳を傾けながら求められる品質基準を再検討し、営業努力をすべきだ。

新しい時代のローカリゼーションは多様化する。ニーズが多様化する中だからこそ、自社独自のサービスを模索しなければならない。たとえば、翻訳にコピーライトを組み合わせたtranscreationやMTのポストエディットの能力は競争力になるだろう。ナンバーワンよりもオンリーワンを目指すべき。

会場風景報告者:田中 千鶴香(個人翻訳者、JTF理事)

●支援ツール分科会1

【C-1(45分)】「オープンAPI とクラウドによる翻訳管理システム XTM」

関根 哲也(せきね・てつや)氏 XTM-INTL Japan Representative DITA・GCM ソリューションコンサルタント

講演風景関根 哲也氏XTM とは、XML Translation Management の略で、XML の技術から成り立っている翻訳支援ツールである。他の翻訳メモリーツールとの具体的な違いは、次の点である。
・OASIS、W3C、UNICODE、ISO、LISA/OSCAR などの権威ある国際標準化団体のみの標準を採用
・オープンソースのOS やデータベース(MySQL、PostgreSQL)環境で運用可能
・クラウドやオンサイトのどちらでも運用可能
・ツールやファイル形式に依存しないプロセスの確立
・オープンAPI やWeb サービスで、簡単にCMSなどの既存システムと連携可能(拡張性が高く、モジュール的に組込み可能)
・XTM のメモリーはオーサーメモリー/翻訳メモリーの両方に使えるため、執筆から翻訳までのライフサイクルのすべてを管理可能
・インターネット回線とブラウザのみで翻訳作業が可能
・プロジェクト管理が容易
さらに翻訳会社や企業翻訳部門向けに、生産効率アップのために以下の手法が提供されている。
・翻訳リソースをリアルタイムに共有しながら複数の翻訳者で翻訳作業を進行可能
・ソースファイルの変換を含めた翻訳エンジニアリング処理の自動化
・ワークフローとリアルタイムプロジェクト進捗管理によるプロジェクト管理

XTM はOASIS 標準のOAXAL(Open Architecture for XML Authoring and Localization)の実装アプリケーションで、OAXAL 同様、XTM の利用法には次の2つのタイプがある。
翻訳ワークフローのみについては、XTM Suite(スタンドアロン)やそのクラウド版XTM クラウド、翻訳会社や企業翻訳部門のポータルへの組み込みなどがあり、ソースドキュメントの作成も含めたワークフローについては、DocZone(クラウドにて提供のサービスで、執筆から翻訳までの多言語コンテンツ管理が可能)などがある。
XTMの導入企業には、Lingo24 Ltd.、MERRILL BRINK International(2社とも翻訳会社)、京セラ(株)(北米の開発センタおよび国内拠点の一部にてDocZoneを採用)、Epson America,Inc(DocZoneを採用)、カナダのAdvanced Micro Devices, Inc. などがある。
なおXTM Cloud では、登録サイトから実際に登録してXTMを体験できる(30日間無料)。

報告者:大津 祥子(個人翻訳者)

【C-2(45分)】「個人も使える!業界で共有する翻訳メモリー TDA〜進化していく翻訳メモリー〜」

中村 哲三(なかむら・てつぞう)氏 YAMAGATA INTECH 株式会社 プロジェクト推進室 室長

講演風景中村 哲三氏翻訳メモリーの登場から10年余りがすぎ、今、翻訳メモリーが大きく進化している。

現在市場に出回っている機械翻訳(MT)はルールベースで開発されており、効率面および実用面で疑問の声が上がっている。一方、Googleは統計的MTを採用しており、ルールベースのものに比べて精度が高く、実用的である。しかし、一般の人の翻訳など、選別されていない翻訳をインプットとして使用しているため、品質が保証されていない。そこで、現在期待されているのがTAUSが始めたTDAが提供する翻訳メモリー共有サービスである。

TAUS(Translation Association User Society)は、Visionary Peopleの1人であるオランダ人のJaap Van Der Meer氏によって創設されたMT化を推進する企業である。TDA(TAUS Data Association)はTAUSが始めた非営利団体で、「スーパークラウドTM」と呼ばれる翻訳メモリーのグローバルリポジトリーを業界で共有する試みに取り組んでいる。Googleと同様にTMをパラレル・コーパスとして使用し、統計的なアプローチを採用しているが、検証した上でデータをデータベースに取り込むため、ユーザーは品質が保証されたデータを利用することができる。なお、データは、TMX、XLIFFのフォーマットでプールされている。
メンバーは、自社の TM/用語集を提供する代わりに、他のメンバーのデータをフレーズ単位やコーパス・ベースで再利用でき、言わばgive&takeの形でこのサービスに参加する。年間使用料は、企業で5000/1500ユーロ、個人で50ユーロ。また、誰でも利用できる検索サービスとしてTAUSサーチが提供されている(http://www.tausdata.org/index.php/language-search-engine)。

報告者:野口 珠希(個人翻訳者)

【C-3&4(90分)】「ローカリゼーション・ソリューション模擬コンペティション」

セッションの概要:
翻訳ボリュームと対象言語の増大、品質向上、スケジュール管理、短納期化、コスト削減といったさまざまな要請に対応し、翻訳会社と翻訳者が生き残るためには、最新のローカリゼーション ソリューションを知り、使いこなすことが必須である。代表的ローカリゼーション ソリューション ベンダーである三社が、各社のソリューションについて語る。

Welocalize:
クライアントが最も望んでいることは、スピーディなサービスの提供であり、そのためにはオンデマンド対応が欠かせない。オンデマンドでのローカライズには、単一プラットフォームでのスムーズなオペレーションと高度なインターオペラビリティが求められる。そのようなプラットフォームを用いた翻訳サプライチェーンにエンドユーザーを取り込み、サプライチェーンの全てのブラックボックスを透明化し、コラボレーション作業により、ローカライズの完成度を高める仕組みを目指している。

Welocalize社が提供するソリューションはオープンソースのGlobalSight (www.globalsight.com)であり、誰でも無償で使用することができる。GlobalSightを中心に、お客様のCMS、TMS、MTシステムやバックオフィスシステム、経営方針の決定に必要とされるレポーティングなどを全て単一プラットフォームに統合し、最終的なお客様である、エンドユーザーのエクスペリエンス(満足度)を重視している。

ライオンブリッジ:
対応言語数の増大による費用と管理負荷の増大、スケジュールの遅延という課題に対処するため、資産共有型プロセスを採用している。その中心となるのが翻訳資産管理プラットフォームのTranslation Workspaceである。オンデマンドのSaaSアーキテクチャのため、バージョンアップ等のメンテナンスが不要であり、リアルタイムにTM(翻訳メモリー)を更新でき、クライアント サイトでのエンジニアリング スタッフ配備が不要となる。翻訳生産性の向上、コンテンツの一貫性の向上、コンテンツ再利用率の向上といったメリットがある。

並木英之氏、水村秀一氏、儀武真二氏

「左から:並木英之氏、水村秀一氏、
儀武真二氏」

高橋聡氏

「高橋聡氏」

会場風景

Translation Workspaceを使用する翻訳者は、テナンシーとして独自にクライアントやエージェントから仕事を獲得することができる。

SDL:
部門、用途、翻訳会社により異なるTMが作成されることで、多言語資産の孤立化が問題となっている。これを解決する方法として、グローバル情報管理(GIM)により資産を効率的に再利用する仕組みを導入している。このような翻訳テクノロジを翻訳サービスと組み合わせることで、コンテンツの作成、管理、翻訳、パブリッシングにかかるコストを削減することができる。

このテクノロジの中心となるクローズループとは、TMを下流から上流にもう一度戻して循環させる仕組みである。グローバルオーサリング管理システムに採用することで、あいまい一致効率の向上を図っている。今後、ナレッジベースなどの翻訳では、モジュラー トランスレーション、自動翻訳、機械翻訳と自動配信を組み合わせたソリューション展開が進むと考えられる。

報告者:小野 温代(個人翻訳者)

【C-5(45分)】「機械翻訳時代に翻訳者の生きる道」

井口 耕二(いのくち・こうじ)氏 技術・実務翻訳者、JTF常務理事

講演風景井口 耕二氏機械翻訳 (MT) の精度が上昇し、MTの導入も始まった。その中で翻訳者はどのように進めばよいのか、どういう道をゆくのが幸せなのか。翻訳者の幸せは、好き嫌い、貢献の実感、能力の発揮、能力開発、自立性、収入、拘束時間、将来性などの指標で検討できるだろう。

MT利用で650ワード/時を達成という話もあったが、素で1000〜1500ワード/時という翻訳者もいる。鍛えれば人は成長するが、MTはツール特性から数百ワード/時が限界だろう。

MTなら用語適用ができるとよく言われるが、複数の訳語がある場合などうまくいかないケースも少なくない。その修正には用語の全数チェックが必要でかえって時間がかかる。結局、用語の正確性は人の能力次第。そもそも用語への対応は品質以前の問題であり、翻訳者なら基礎技能として身につけなければならない。

MT+編集では、人間による翻訳と同じ品質に到達できない。翻訳業界では常識となっているが、80点の翻訳をする人が40点の翻訳をリライトしても60点にしかならないからだ。MTの出力を十分に編集せずに納品してしまう危険もある。

翻訳の力をつけるトレーニングの問題もある。MTを使うと仕事以外に相当量のトレーニングをこなさないと力がつかない。実力を高めたいなら、よい技能が身につく正しいトレーニングを日々の仕事の中で自分に課すべきだ。

収入面も考慮のポイントだろう。ワード数×単価で計算した場合、単価が3割下がると、処理量がツールで4割上がっても、売上 (収入) が下がる。

結論として、人間翻訳と機械翻訳では作業の質が全く異なり、MT出力の編集をしながら人間による翻訳をめざすのは無理である。今後マーケットが縮小するかもしれない、機械にできない翻訳に特化するのか、MT+編集に活路を見いだすのか……一人ひとりがよく考え、自分にとって幸せな道を選んでほしい。

報告者:野口 珠希(個人翻訳者)

【D-1(45分)】「翻訳者だからできる!世界に向けたアプリの開発と販売」

西野 竜太郎(にしの・りゅうたろう)氏 IT翻訳者

講演風景西野 竜太郎氏従来のアプリ販売方法では、自社運営のコスト、買い手とのマッチングや集客、インストールなどの課題があったが、新しい流通インフラの登場により解決された。個人や小規模企業も世界市場に参入しやすくなった。この新しい流通インフラのうち、Android端末向けのAndroid Marketと、Webアプリケーション向けのGoogle Apps Marketplaceを説明する(時間の都合により説明はAndroidのみ)。Androidアプリの開発には、従来のプログラミング方法に加え、モバイル端末特有の動作について考慮が必要。多言語対応には、言語別のリソースファイルを用意する。このリソースファイルは、XML形式のファイルを扱えるエディターツールを使ってローカライズ可能。

公開したAndroidアプリの実績を基に収益化について分析した。2009年12月にAndroid Marketに無料版を公開。2010年12月8日から有料版を提供。無料版には広告を挿入。UIとオンラインマニュアルは英語と日本語に対応し、Facebookファンページを開設。ダウンロード18万回、アクティブユーザー74,000人。これはAndoroid Market全体の上位1〜2%内に位置する。販売と広告のデータを基に収益を予測すると年間16万円程度。開発費用を80〜120万円と考えると、黒字化は容易ではないというのが結論。
翻訳者や翻訳会社としては、たとえば以下のようなトータルなビジネスモデルを考えるべき。

・アプリ販売支援サービス:登録手続き、広告掲載、広告効果測定などを代行。インフラがまだ新しいため、インフラに関する知識と外国語能力を武器にして高付加価値サービスを提供。
・ソーシャル支援サービス:ソーシャルメディアを通じた海外対応を、外国語の専門家として支援。
・フリーミアム(無料+有料)によるサービス:アプリの翻訳自体は無料で行い、上記のような関連サービスで利益を上げる。
・アジャイル対応のサービス:従来のウォーターフォール型開発と異なり開発サイクルの短さが特徴であるため、開発現場への常駐やSkypeを利用した即時対応を売りにする。
最後に、セオドア・レビットが提唱した「マーケティングマイオピア」という概念を紹介した。これは「事業ドメインを狭く定義した結果、収益機会を逸する」ことに警鐘を鳴らすもので、翻訳者や翻訳会社も翻訳事業を狭く捉えず、外国語能力と専門知識を活かすチャンスを捉えるべきではないだろうか。

報告者:東 尚子(個人翻訳者)

【D-2(45分)】「No.1フリー翻訳支援ツール OmegaT 入門」

エラリー ジャンクリストフ(Jean-Christophe Helary)氏 OmegaTプロジェクト 現地化担当 株式会社DOUBLET 代表取締役

講演風景エラリー ジャンクリストフ氏タイトルに「フリー翻訳支援ツールOmegaT」とあるが、ここでの「フリー」は「無料」というより「自由に使える」の意である。OmegaTのライセンスと他のソフトウェアのライセンスの根本的な違いは、前者ではGPL(一般公衆利用許諾契約書)によってソースコードが公開され、ソフトウェアを自由に使用、改良、再配布できるが、後者では使用する権利を買うものである。

OmegaTの機能・操作における主な特徴は以下となる。
・翻訳メモリはTMX形式。
・翻訳メモリ内の訳語検索には正規表現も使用可能。
・原文と訳文を選択して用語集に取り込む機能もあり。
・Autoフォルダに既訳のメモリを入れると、プロジェクトを開く際に自動的にメモリ訳を適用可能。
・分節規則の設定も可能。
・タグ検証機能あり。
・対応ファイル形式は、Microsoft Office 2007、XLIFF、XHTML、HTML、OpenOffice.orgなど。

現在、1日に約150人がOmegaTをダウンロードしている。ユーザサポートは、1日に約12通のペースで対応されている。新機能はリクエストおよび寄付で対応可能で、上記の「原文と訳文を選択して用語集に取り込む機能」も、エラリー氏経営の会社による寄付(約500ユーロ)と依頼によって作成された。このような新機能追加は、寄付者本人だけではなく他のユーザにも有益であろう。

【質疑応答】
Q:将来的にOmegaTがTradosに置き換わることはできるのか。
A:技術的には可能で、エラリー氏自身も取引先の協力を得つつ、Trados案件をOmegaTで作業している。(翻訳会社から分節化された形式でTTXファイルを受け、Okapi FrameworkのRainbowにてXLIFFファイルに変換、OmegaTにて翻訳作業。TradosのメモリはTMXにて支給。)

Q: OmegaTの操作に慣れるにはどれくらい時間がかかるのか。
A:機能ガイドを読めば10分読めばだいたいわかる。

Q: OmegaTは今後どのように開発され進化していくのか。
A: 1つは、同じ原文に複数の訳文を登録可能とすること。2つめは、とても大きな翻訳メモリにスムーズに対応可能とすること(EUによって公開されている1GBの翻訳メモリへの対応準備中)。OmegaTのサイトにはユーザからのリクエストが記録されているページがあり、これに沿って開発が進む予定。

報告者:大津 祥子(個人翻訳者)

【D-3(45分)】「統計的機械翻訳の理論と実装」

河野 弘毅(かわの・ひろき)氏 株式会社アイタス シニアローカリゼーションスペシャリスト

講演風景河野 弘毅氏いま機械翻訳はここまできている(それなりに日本語として読める)という具体例から、機械翻訳の歴史、方式、統計的機械翻訳の概要と市販されている製品の紹介と課題について。

機械翻訳ソフトが商品化されて以来、主流だった構文解析方法(ルールベース)だが、インターネットが発達し、コンテンツの蓄積が可能になった現在では統計的手法が(海外では)主流になりつつある。統計翻訳では、翻訳モデルと言語モデルを組み合わせて訳文を生成する。翻訳モデルは、原文と訳文のペア(パラレルコーパス)を大量に集め、対応して登場する確率が高い単語/句を計算する。言語モデルは、生成された言語において、直前の語句から次に登場する確率の高いものを求める。構文解析を行わなくても、数百万センテンスあれば精度の高い訳文を作ることができる。

また、機械翻訳の精度を上げるために原文をチューニングするという制限言語アプローチの考え方がある。「産業日本語」はその一例。統計手法の発展を加速してきた要素には、翻訳モデルの発展、自動評価法の発達、フリーのツール(Mosesなど)、チューニング法の発達(デコーディング/トレーニングは自動的に処理可能)、大量の言語資源(パラレルコーパス)が使えるようになったことがある。また、言語構造の近いものについて翻訳精度が向上するという特徴がある。

課題としては、どこまでの言語資源が必要かがまだ分からないこと、コーパスが作られない分野では成果がでないことがあげられる。ただし、ローカリゼーション業界には大量のパラレルコーパスがある。これを活用することによって、統計的機械翻訳が有効であると考えられる。統計機械翻訳には、大量の言語資源が重要になることから、翻訳メモリを共有しようという動き(TAUS)がある。セッションでは、統計的機械翻訳のフリーツール「Moses」(市販製品にはSYSTRAN、Language Weaver、Asia Online、Pangeanicなど)が紹介されたほか、Pangeanic社の CEOであるManuel Herranz氏から、Mosesの産業翻訳への適用に関する説明があった。

本セッションの詳細は以下を参照。
http://sites.google.com/site/smallmediajp/

報告者:矢野 直子(個人翻訳者)

【D-4(45分)】「平均時速650語の翻訳支援技術─機械翻訳を活かして効率と高品質を両立する秘密」

山本 ゆうじ(やまもと・ゆうじ)氏 秋桜舎 代表、言語・翻訳コンサルタント

講演風景山本 ゆうじ氏実務翻訳者、AAMTのワーキング グループのリーダー、SDL TRADOS講習の公認講師という3つの立場から、翻訳の現場と機械翻訳(MT)、TMの活用という視点での講演。

翻訳ソフトは、翻訳現場ではまだ普及していない。翻訳ソフト メーカーは翻訳現場の需要を、翻訳現場では翻訳ソフトの特性を理解していない。平行線のまま、統計機械翻訳がブームになった。翻訳ソフトは概訳(だいたいの訳で意味がわかればよい)を主用途としているが、翻訳現場では、正確な用語適用、表記の統一が必要。統計機械翻訳ではユーザーは用語や表記を制御できず、翻訳現場で使うには支障がある。

統計機械翻訳は、統計的にフレーズを抽出してつなぎあわせる。ルールベースは、用語管理と一体化しているため、用語集と調整した辞書によって、何をどう訳すかを100%管理できる。

統計機械翻訳はボトムアップのアプローチであり、翻訳メモリーの自動化ともいえる。効果があるのは、概訳、類似した言語間の翻訳、ラテン文字以外の言語で少しでも意味を知りたい場合など。課題としては、語順が違う言語では精度が落ちること、ユーザーが制御できず、フィードバックできないこと、原文や翻訳結果が第三者のサーバーに保持されることが挙げられる。

ルールベースはトップダウンであり、ぎこちなさはあるが、用語を正確に反映できる。
平均時速650語の実現の秘密は、翻訳ソフトの体型的な活用、徹底的な辞書構築、徹底的な自動化にある。余力は目視でのチェックに回せる。

UTXは、共通辞書仕様(AAMTで策定中)。MTは、知らないことは訳せないが、用語集として知識を教えれば、正しく訳すことができる。用語集は、小さな努力の積み重ね。用語集に限らず、細かい努力を積み重ねていけば、翻訳の速度は上げられる。

実務日本語について。原文言語としての日本語は、表記規則に合理的な規則がないため、あいまいで訳しにくく、コストが高くなる。日本語の表記規則は収束すべき。そのためには「実務日本語」。シンプルで読みやすく、誤解を避けるために明快で論理的にする。その結果、訳しやすくなり、コストを削減して、共有と再利用ができる。また表記が統一されていればチェックは楽になる。実務日本語は究極の表記規則ではなく、現状への問題提起である。

報告者:矢野 直子(個人翻訳者)

【D-5(45分)】「ポストエディット入門2010」

斎藤 玲子(さいとう・れいこ)氏 日本オラクル株式会社 WPTG - Worldwide Product Translation Group - Japan, Senior Language Specialist

講演風景斎藤 玲子氏機械翻訳(MT)は使えないと言われてきたが、現在はかなり改善している。MTには、構文解析して訳文を作成するルールベース(RBMT)と、統計データを基に訳文を作成する統計ベース(SMT)がある。

MTは、コストを抑えつつ早く大量の情報を翻訳したい企業にとって魅力がある。特にSMTは、蓄積した翻訳データを活用できるため注目されているが、まだ発展途上の技術であり、ポストエディットの果たす役割は大きい。

MTとポストエディットの使い方として、「MTのみ」は、意味が通じるレベルで良いものに向いている。「MT+社内エディット」は、コストをかけずに品質を維持できるが、対応できる量が限られるため、MT導入初期に適している。総合的に見れば社外にエディットを発注するほうが効率が良い。エディットには、フルエディットとライトエディットがある。フルは人による翻訳に近い。ライトは、コストとスピード、正確さを重視し、スタイルや読みやすさは許容レベルに止める方法であり、大量のオンライン参照情報などに適している。この基準の見極めが重要となる。

ポストエディットには翻訳とは別のスキルが必要。また、RBMTとSMTの特徴を理解しておく必要がある。MTは今後、使う使わないではなく、どう使うかの時代になる。翻訳者に取って代わるのではなく、新しいマーケット。ポストエディットのスキルを習得することでチャンスにできる。

最後に、参加者と意見交換が行われた。
・ライトエディットを依頼する場合のコントロール方法:最初に基準の合意が必要。単純に作業時間を決めてしまうなどの方法も考えられる。
・MT前のプリエディットによって精度を上げる方法:原文のライティング基準を定めるケース、MT前に編集するケースが考えられるが、内容によっては上流での対応が必要。
・翻訳者がエディットするとスタイルに意識が奪われ、正確さが見過ごされる傾向がある。ポストエディットにはSMTよりもRBMTが適しているのか:MTからの出力に影響されるのは確か。RBMTのほうがスタイルに固執しない可能性はある。重要なのは、スピードを意識し、スタイルを許容できるマインドセット。
・翻訳メモリとのマッチ率に応じて人による翻訳とMTを混在させる場合、スタイルの管理をどうするか:混在している状態はすでにライトと割り切るしかない。人がライトに合わせるのは難しいが、スタイルガイドの使い分けは非効率。時間とともに全体がライトに近づくのではないか。

報告者:東 尚子(個人翻訳者)

【交流パーティー】

東 郁男氏●JTF会長挨拶
東 郁男(ひがし・いくお)氏
JTF会長・翻訳祭企画実行委員長、株式会社翻訳センター 代表取締役社長

今日はお疲れさまでした。1日という長い時間、参加していただきありがとうございました。このような大規模で開催するのは初めてでしたので、非常に不安があったのですが多くの方にご参加いただきありがとうございました。今回新しい試みとして翻訳支援ツール分科会、翻訳業界の分科会というものを開催いたしました。非常に面白い、中身の濃い翻訳祭ができたのではないかと思っておりますが、運営側で不備があったかもしれません。そのあたりはご容赦いただければと思います。今回翻訳祭の企画実行委員、翻訳連盟事務局、各分科会でボランティアとして運営にかかわっていただいた方に御礼を申し上げます。
翻訳業界は不況から脱出しつつあるあるかと思いますが、需要を創造し、生産効率を上げながらいいものを生み出していく業界でありたいと思っております。本日はありがとうございました。

中内 重則氏●来賓挨拶
中内 重則(なかうち・しげのり)氏 
経済産業省 商務情報政策局サービス産業課 企画官

本日は過去最大の規模で行われている20周年記念JTF翻訳祭の開催について、誠におめでとうございます。少子化の進展や団塊世代の一斉退職等を背景として、労働力人口が減少している中で、サービス産業はGDP や雇用ベースで日本経済の七割を占め、製造業と並ぶ「経済の双発のエンジン」であり、翻訳連盟におかれましても、重要な役割を担われていくことを期待しております。当省では今年の6月に、日本の産業の今後の在り方を示した「産業構造ビジョン2010」を取りまとめ、公表しました。この中で、とりわけ、医療や介護、健康関連の分野については、高い成長と雇用創出が見込まれる重要な分野と位置づけています。また、アジアを中心に急増する医療ニーズに対して、円滑に外国人患者を受け入れるための体制を整備するなど、医療の国際化に向けた取り組みを進めているところです。これは翻訳業にも関連するもので、引き続きのご活躍を願っております。最後になりましたが、日本翻訳連盟の今後の発展と翻訳業の健全なる繁栄、更なる飛躍を期待いたしまして、私の挨拶と代えさせていただきます。

第52・53回JTFほんやく検定1級合格者表彰式 ※第52回:2010年2月実施 第53回:2010年7月実施

植田 忠志氏●祝辞
植田 忠志(うえだ・ただし)氏
ほんやく検定委員長、JTF理事

祝辞を述べさせていただきます。今回の3名の方はすごいです。第52回ほんやく検定は2月に第53回は今年の7月に行われました。第52回は英日翻訳で356名の方が受験されましたが1級はわずかに7名でした。金子さんと曽根さんはその中の2人です。もっとすごいのは第53回で、英日370名中1級合格者は阿部さん1名だけでした。この非常に厳しい試験ですが、ポイントは商品として通用する翻訳であるかどうかという点です。もっと平たく申し上げるとこの翻訳でお金を取れるかどうかということです。この厳しい難関を突破しました3名の方に改めておめでとうと申し上げます。3名の方々はご自分をぜひアピールしていただきたいですし、皆様もどうぞ交流を深めていただきたいと思います。簡単ではございますが祝辞とさせていただきます。おめでとうございました。

曽根寛樹氏 阿部菜穂子氏●1級合格者
左から:曽根寛樹氏 阿部菜穂子氏

金子 英彦氏●合格者代表挨拶
金子 英彦(かねこ・ひでひこ)氏

丸山 均氏●乾杯挨拶
丸山 均(まるやま・ひとし)氏
JTF副会長

岩田 ヘレン氏●関連団体祝辞
岩田 ヘレン(Helen Iwata)氏
JAT理事長

井口 耕二氏●中締め挨拶
井口 耕二(いのくち・こうじ)氏
JTF常務理事

●会場風景

会場風景会場風景会場風景
会場風景会場風景会場風景
会場風景会場風景会場風景

【翻訳プラザ】

展示・デモコーナー 出展企業(50音順)
翻訳ソフト、辞書、CD-ROM、PC等の展示・デモ

書籍・翻訳相談コーナー 出展企業(50音順)
書籍の販売、翻訳会社・翻訳学校の担当者との相談コーナー

●翻訳プラザ風景

翻訳プラザ風景翻訳プラザ風景翻訳プラザ風景
翻訳プラザ風景翻訳プラザ風景翻訳プラザ風景
翻訳プラザ風景翻訳プラザ風景翻訳プラザ風景
 

交流パーティー報告者:早舩 由紀見(個人翻訳者)

⇒翻訳祭のセッション内容はDVDで受講できます

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